かねてから計画していたとおり、ひょうごオンリーワン経営研究会の10周年企画として、東海バネ工業株式会社の伊丹工場を見学しました。同社の本社は大阪市福島区にありますが、工場がある伊丹市郊外は道路事情がよく、他社の工場もたくさん集まっています。阪急伊丹駅からタクシーに分乗して10分あまりの距離ですが、幹線道路沿いには、レストラン・スーパー・紳士服チェーン店などが途切れることなく並んでおり、商工ともに活力を感じる地域です。
工場は幹線道路から少し入った池のほとりにありますが、広い敷地に数棟の工場建物が立ち並んでおり、事務所2階の会議室に案内されて、1時間あまり渡辺社長のお話を聞かせていただきました。
東海バネ工業がオンリーワン企業とされる理由は、大手企業が標準品を大量生産しているバネ業界の中で、同社は大手企業が引き受けたがらない多品種微量製品に特化して「競争しない競争戦略」を打ち立てていることです。同社も、先代が社長をされていた1970年代には標準品や中量受注を手がけて失敗しています。渡辺社長からは、この戦略に至った思いと、先代をはじめ大勢の社員の理解を得るまでの経緯を存分に聞かせていただきました。
同社は、単に多品種微量生産というだけでなく、大きな特殊なバネでも小さな瑣末なバネの試作でも受注しています。また、リピーターから10年前に納品した製品の受注を受けても対応しています。そして、納期順守率は99.97パーセントです。これを実現しているのはITシステムのおかげということですが、40年前にこれに気がついたきっかけは、ある酒屋の主人の「ウチはシステムを売っとる」という言葉だったそうです。この物語には、参加者全員引き込まれるようにして聞き入りました。
いよいよ工場見学となり、参加者は安全帽とイヤホンを付けて屋外へ出ました。最初の建物は、材料置き場でした。同社は、多品種微量製品と納期順守を実現するため、業界平均よりも多くの材料在庫を持っています。伊丹工場はコイルバネを中心に製造しているため、長い鋼材がたくさんありました。また、工場に入りきらないため、仕入先にも同量預けているとのことでした。
参加者の立っている横では、コイルバネの端面切断の作業をしていました。バーナーを使いながら時間のかかる作業で、この工程は機械化できない職人技かと思いました。
次の建物では、ハイライトである巻き取りの作業を見せていただきました。これも昔は、ばね職人が全て手作業で製造していましたが、同社が開発した世界に一つの大型熱間コイリングロボットYUKI(ユーキ)で、ばね職人のノウハウをデジタル化しています。私達の見学時間に合わせて、たった二つだけ受注したバネを巻き取るところでした。建物の入り口近くにYUKI(ユーキ)が据え付けられていましたが、建物の奥から真赤に加熱された70oの鋼棒がゆっくりと伸びてきました。一端が回転しているドラムに触れると、鋼棒はドラムに吸いつくように丸くなり、ドラムの方がゆっくりと横に移動すると、鋼棒は2分程でらせん状のバネの形になりました。そして10分足らずかけて冷ます間に鋼棒はだんだんと黒くなり、ドラムがスッと引き抜かれて用意された台車に収まりました。これほどの機械を作ってもらうのは大変だったということですが、製造機械を製造する企業の苦労もしのばれました。
もうひとつのハイライトである熱処理は、残念ながら当日の作業がないとのことで見ることができませんでしたが、最後の建物で完成検査の作業を見せていただきました。ここでは、製造に全く関わらない社員が、やはり特注の機械とITを駆使して検査をしています。私達が感心したのは、その隣に「ハザードマップ」という大きな工場内の地図が掲げられており、場所ごとに、発生の可能性のあるリスクや注意すべきことが書き込まれていたことです。私の前職の鉄道現場でも安全衛生には格段の注意喚起がなされていましたが、製造業でも経営のリスク管理と従業員満足のために大切にされていることを感じました。
工場見学を終えて、生き生きと仕事をされている従業員の皆様の顔と姿が一番印象に残りました。渡辺社長と案内をしていただいた方をはじめ、作業を見せていただいた従業員の皆様に心から御礼申し上げます。(中島 和樹記)
<懇親会>
当日17時より伊丹シティーホテルで懇親会を行いました。参加者14名。
このHOOはちょうど10年前、阪神震災後「ひょうごに元気な企業を増やそう。そして特色あるオンリーワン企業を創出してゆく」の熱い目標を持ってスタートしました。今回の東海バネ工業(株)さんはこの発足目標にふさわしいモデル企業の1つです。
その意味でもHOO10周年にぴったりのイベントとなりました。皆さんが見学の感想を紹介しご縁を交わしました。少しのお酒と中華料理で和やかな宴を楽しみました。
10周年の節目を機会にHOOは又新たな前進を目指してゆきます。これからの皆様のご指導、ご支援をお願い申し上げます。
(福島 繁記)